百聞は一聴にしかず

Catch The GO'S SOULというHPにあったゴスペラーズの曲紹介を中の人が移設しています。

Sweet

このアルバムのなかで、一、二を争うエロ曲(きっぱり言い切る!)。
さて、問題です。
あなたは、『Sweet』と『Yes,No,Yes…』とどっちがエロいと思いますか?
コレの答えは解答者の経験と趣味、嗜好と大いに関係が深そうなので、私はあえて解答を避けたいと思います(笑)
ピアノが引き立つシンプルなメロディが、ヒトの感情を赤裸々に表している。
黒沢氏が書いた歌詞は十分に直接的なエロさを孕んでいるが、本人はもっと濃厚にしたかったそうで。
いったいどこまでやりたかったのか、どこかで話を聞いてみたいものだと思わずにはいられない。

『Yes,No,Yes…』では、主なリードボーカルが安岡氏で、コーラスのつけ方もかなりやわらかい耳触りになっていて実は同じように身体が“揺れている”のだが(汗)、イメージする世界はかなり異なるだろう。
『Sweet』のほうは闇が中心で、満月に少し足りない月の光が闇を切り裂くような一筋の光として二人の影を作り出す、そんな世界に私には思う。
どうして“満月に少し足りない月”なのかというと、
求め合っても求め合っても、どんなに求め合っても、なぜか完全に満たされないという、
人間同士の永遠のテーマの象徴としてのそんな月を思い浮かべたのだが、
たかだか一曲聴いてもここまでいろいろ想像できるんだということの一例としてご紹介。
これが答えということではありません。
いろいろ思い描いていただきたいということである。

この曲は、2年ほど前に黒沢氏と妹尾氏が作ったものらしい。
黒沢氏の鼻歌かなにかを(←ここは想像)妹尾氏がピアノで弾いて、“かっこいー!”と思った黒沢氏が歌詞を書いたんだとか。
当時はインタールードにするのをイメージして作ったそうだが採用されなかったそうだ。
しかし、北山氏が黒沢氏の留守電に「あの曲いいです。以上です」とメッセージを残してくれたのが嬉しかったんだそうだ。
それから時は過ぎ、今回、改めて1曲分に作り直したのだそうだ。
録音するときは、村上氏と黒沢氏が並びで録音したそうだが、村上氏が先に「飽きた!」と音を上げたそうだ。

余談だが、“シルクの海”なんて表現を使うあたり、“この人はアイズレーを聴いて育ったソウルマンだわ”と思ってしまった(笑)

 

Real tight

『Reflections』に続き、サウンドはファンク寄りで、SOYSOULが一枚噛んでいるのが如実にわかる。
作家コンビは、作詞が山田ひろし氏、作曲が酒井氏と村上氏である。
山田氏&酒井氏のコンビというと、私としては『Atlas』を思い出すのだが……オトナになったな(笑)
酒井氏が『Slow Luv2』というのもとてもよくわかる。
“男らしさ”とか“男性のプライド”を前面に出したイメージで、
同じ“男性の感性”を表現するにしても村上とは対極的な表現の仕方をする人である。
この曲を最初に聴いた時は思わず膝を叩いた。
そういえば、酒井が作った曲に村上氏が手助けにいく“玉虫色”のパターンも多い。
どうやら酒井氏が袋小路に入っていくパターンというのがあるようだ。
考えすぎるのも良くないかもしれないが、考えないと人間は死んだも同然だから。
そんな堕ちていく酒井氏のことは好きだ、うん。

このこゆ~い歌を演出しているアイテムは複数ある。
歌詞も、曲も、ボーカルも。
ブルージーなメロディが歌い回しをとても難解にしている一方で、
それが効果的にこの曲の奥に流れる感情を表すようになっている。

この曲に限らず、ゴスペラーズの楽曲はどんどん想像力を必要にしているように思う。
さらっと聞き流したとしても悪くはない。
けれど、そうすると“コーラスがステキ”とかそんなことしか残らないであろう。
しかし、しっかり聴き込めば、たとえばこの『Real tight』の持つ、深すぎるまでの情愛などそういうものを意識せざるを得ない。
もちろん聴く人によって経験はさまざまだから具体的なイメージは個人によってバラバラだろうが。
“もうどうしようもない”、“一途”な想いをぐっと4分間に閉じ込めてあるわけであるが、
こういう想いにどこまで聴く人間が入り込んでいけるかというところが、
このアルバム全体のポピュラリティと関係が深いと思う。
だから、どんなにがんばっても中学生ぐらいには厳しいだろう。
音のかっこよさとか、他の音楽では感じられない“違和感”に衝撃を受けたとしても
それだけがこの曲のよさではないし、ゴスペラーズのよさではないから、
それではまだ十分に“理解した”ことにはならないのだろう。
きっと、オトナになったらもっとわかるよ、というしかない。
しかし、若いうちに一度聴いて、それから後々聴き直せば新しい発見があるに違いない。

 

Reflections

まるでこの後ZOOCOが歌いだしそうなこれぞSOY SOUL!というイントロからシビレル。
こういう生楽器のちょっともたっとした感じやいなったい感じがイイ味になっている。
ちなみに、SOY SOULとはソウル・ファンクなどをやってるグループです。詳しくはHPなどを参照。
むちゃくちゃカッコイイので是非一度聴いてみて下さい♪(プチ宣伝・笑)

村上氏が「自分が持っているいくつかの声に合わせた感情を探してみよう」と自分の持ち味を分析し、
地声の低い部分と、飛び道具としての裏声をポイントに作った曲。
低い声で男の弱さを、そして裏声でそんな男にもある激情を表現しているそうだ。
そして、それに絡む酒井氏の落ち着いた声と不安定なファルセットが激情を煽っているように感じられる。
この手の村上氏独特の曲は以前までは村上氏一人で歌っていたが、
今回そこに酒井氏が加わることによってより複雑な男の激情が表現できてるのではないかと思う。

間奏のしばしの静寂がこの曲に緩急をつけていてハッとする。
あそこの黒沢氏の裏声での歌詞が妙に象徴的。

もうバックから歌詞から歌からすべてがバチっとハマっていて、
最高に乗れる曲なのは間違いないので、ライブで聴くのがホントに楽しみ!
ぜひともライブではリズムに身体を任せて感じてください。

 

You are my girl

安岡優作詩、村上てつや・松本圭司作曲のみごとなバランス感覚を呈する楽曲。
イントロで震えが起こるほど、すばらしくブラックミュージックのテイストを踏まえている。
トラックをK-Muto氏が作っているためビート感は新しく、しかし、メロディやコーラスワークは
ソウルミュージックのテイストを持っているという、これぞバランスの妙。
このバランス感覚を維持できるのは、さすがブラックミュージックに精通している証である。
イントロでいきなり来る“You are my girl~”というコーラスのフレーズはまさにソウル、ボーカルグループの特権。
ここを“気持ちいい!!”と思ってしまった人は、このままソウルの深い海に溺れていってください(笑)
このゆる~いループ。永遠に続いたとしても飽きの来ないグルーヴ。
これを気持ちいいと思わない人間はいないだろう!!
歌詩は村上氏からのオーダーどおり、「君が好き」ということしか言ってません。
これもまたブラックミュージックにありがちな展開。
実にキラキラと輝くようなシーンが目に浮かぶような歌詩。
タイトルもいかにもソウルっぽくてど直球だし、すべてにおいて衒いのない直球勝負の曲なのだ。
だから、あんまり理屈もなく好きになれる曲。

 

めぐる想い

酒井さん作曲のしみじみイイ曲。
エンディングにピッタリの穏やかながら考えさせられる曲。
いっそのこと『星屑~』入れないでいろはで始まりこの曲で終わる流れにしてしまえばいいのに、と思う。

シンプルだからこそ映える曲だろう。
ここにどんな楽器が入っても雄弁になりすぎる気がする。
感想の口笛なんかまさにこの曲の雰囲気を表しているようでいい。

オルゴールになっても着メロになってもいい曲を、と作り始めたそうだ。
このアルバムで、酒井さんのいろんな引き出しが垣間見られた。
30にしてまだまだ自分を極め続ける酒井さんはやはり武士だなぁ、と思うのであった。

 

シエスタ

安岡優作詩作曲のアカペラらしいようで、なかなかない曲。
初めて発表されたのは、アカペラ街の時。
ライブの冒頭で安岡氏が静かに歌いだすのが印象的だった。
シエスタ”は昼寝のこと。
スペイン語圏では常識的なことで、仕事に就いている人でも、シエスタの時間は用意されてると
昔クイズ番組かなんかでやってるのを見たことがある。

この曲自体は、『Vol.4』の作曲合宿の時に作られたもの。
指一本でピアノの鍵盤を叩いて、どの順番で音が鳴ると面白いのかというのを試してみたらしく、
その結果、ベル・トーンでアカペラをやることにしたらしい。
曲のほとんど―Aメロとでも呼ぶのでしょうか―にベル・トーンが使われている。
この手の曲の場合、あまり長いとしつこくてウザい。
ちょうどいい長さに作ってある気がするし、終わり方もむしろ思わせぶり。

詩の世界も一風特殊。
ロマンティックな歌詩ですね、と言われるそうだが、まったくそういうつもりはないそうだ。
安岡氏的には、自分の殻から出ることができないでもやもやしているような、そんな状態を描いたらしい。
他のアーティストの曲なのだが、私が好きな曲の中に「シエスタ」という同じタイトルの曲がある。
これまた似たような世界観を歌っていて、
日本人にとって、「昼間に寝る」ということは、どこか厭世的な感じがしたりするのだろうか?

 

Tiger Rag

THE MILLS BROTHERSが1931年に出した曲のカバー。
アカペラ人でも歌われた。
ひたすらトラをおっかけてるだけのゆかいな曲。
酒井さんの強烈な舌回しは驚異的。
ヤングがマネすると「パタリロ」に聞こえる、と数年前からもっぱらの評判。
当たり前のことかもしれないが、酒井さんも黒沢さんも
アカペラ人のときとは比べ物にならないぐらいすごいことになっている。

アカペラ人は芝居のテーマとして、今のカルテットコーラスの起源を辿っていた。
その起源というのが、1890年代頃アメリカ流行ったバーバー・ショップ・カルテットである。
その名の通り理髪店で、のど自慢がコーラスを競うというのが全米に広がったものだ。
このミルスブラザーズも父親が理髪店を経営していて、そこから出てきた。

この曲でも声帯模写がフィーチャーされているが、
なぜミルスブラザーズがそういう模写を行うようになったかという理由がおもしろい。
最初は、よくカズー(楽器)を使っていたそうなのだが、ある日カズーを忘れてしまい
カズーで吹くはずだったパートを即興で口真似したのが受けて、
以後それが持ち味として、トランペットなどの模写をするようになったんだそうだ。

余談ながら、ミルスブラザーズは4兄弟だそうだ。
4兄弟というと、アカペラ人での大吉・中吉・小吉・末吉4兄弟を思い出す(笑)
(実際名前が出たのは小吉以外の3人だけなので、小吉は推測。たぶん正解)
上から北山・黒沢・安岡・村上、というおかしな兄弟だった(爆)
ゴスではリーダであるてっちゃんが、
半人前とみなされて仕事させてもらえない末っ子だなんておもしろすぎる(笑)
ちなみに酒井さんはお客さん。